OMAKE
 簡単な考察・設定など。クリアした方向けの内容ですので、ネタバレにご注意ください。


タイトルについて
 "Paranoiac"は訳すと「妄想症患者」というのが一般的です。端的には叔母を示していますが、美紀がParanoiacであるかどうかは個々人の解釈によって変わると思います。
ゲームの雰囲気について
 邦画ホラーのような怖さを出すようにつとめました。BGMは極力使わないようにし、物音や環境音だけで済ますように心がけています。
美紀について
 Loftというホラー邦画が好きなので、その主演女優(中谷美紀さん)から名前を拝借しました。
 美紀は純文学でデビューしたものの評価されず、渋々書いた恋愛小説で名が売れてしまいました。母のヒステリーに加え、そういったストレスも鬱病の要因となっているようです。
 なぜあんなに冷たくされて母から離れないのかということに関しては、二人が共依存状態にあることが考えられます。母は美紀を冷遇しながら、電話したり荷物を送ったりと、気にはかけています。そして美紀は、精神的に不安定な母を見捨てられず、かえって母に依存する形となってしまいました。
 ちなみに母は離婚をしていて、家には母と美紀の二人だけでした。そういった閉鎖的であり、こう着した関係が余計に二人の精神を圧迫していたのだと思います。
三浦について
 一番最初に、手を怪我しているにも関わらず荷物を運んであげたのは、ぶっちゃけると美紀が好みだったからです。実況プレイなどを拝見すると、下心ありありな点についてよくご指摘を受けていますが、まさにその通りです。エンド後、三浦と美紀がどうなるのかは各位のご想像にお任せします。
母について
 一番このゲームでふに落ちないのは、母の叔母や美紀への非情さだと思います。
 叔母の日記にもありますが、母・叔母は学生の頃に両親を亡くしています。全くゲームストーリー上では明かされていないので、完全な裏設定となりますが、母は妹(叔母)のために、行きたかった大学も諦めて働き始めました。元々神経質で責任感が強かった母は、妹を不幸にさせまいと必死で働き、妹を大学へ行かせました。自分で決めたこととは言え、妹が学生生活を満喫している横で働かなくてはならないと事実に強迫され、次第にヒステリックになっていきます。
 職場結婚をして美紀をもうけてからは、ますますヒステリーが悪化し、叔母を憎らしく思うようになりました。美紀がどことなく妹に似ていることもあって、美紀に対しても冷たく当たるようになります。自分が肉親を支えなければという強迫観念によって、母は徐々に精神に異常をきたすようになったのです。
 「激しい攻撃性」(Wikipediaより)という意味で、母もパラノイアだった可能性が高いでしょう。
2019/6 リメイク版公開につき追記
リメイク版について
 「人魚沼」リメイク版はキャラのセリフ、ストーリーが旧版からほとんど変わらなかったのですが、「PARNOIAC」リメイク版はセリフやストーリーにちょこちょこ変更が加えられています。雰囲気を重視したいがために旧版では省いていた細かい説明を補ったためです。
 例えば、なぜ美紀は叔母を好きだったことを忘れてしまっていたのか? という点。旧版では説明を入れていませんでしたが、リメイク版では叔母の死体を発見したことがトラウマとなり、叔母のことを考えようとすると死に顔が浮かんでくるので思い出さないようになった……という美紀の独白が加わっています。それ以外にも、美紀が仕事に行き詰って悩んでいる描写や、母に正論で追い詰められる会話など、物語を読み解きやすくなるシーンが増えていますね。冗長にならないよう気をつけたつもりですが、うっとうしくなっちゃってたら申し訳ないですね……。
 また、ストーリー上の変更点として美紀の外出が挙げられます。というのも、旧版はプレイヤーの方たちに「さっさと外に逃げればいいのに」「あの家じゃなくて別の場所で過ごせばいいのに」と感じさせていたと思うんですよね。実際、そういう意見を目にしたことがあります。実はちゃんと理由があったのですが、前述したように説明を省いていました。あの家から出ようとしない、美紀自身が自覚している理由は、他の場所で過ごす金銭的余裕がない・母に怒られるのが恐いというのが主ですが、もう一つ、美紀が無意識下で感じていることも理由になっていました。叔母に対する無意識の罪悪感が、美紀自身をあの家に閉じ込めているという訳です。このゲームのキャッチフレーズが「私はこの檻の家から逃げられない」になっているのはそのためです。(ちなみにこのキャッチフレーズは、The Sand Manのクリア後特典における他作品紹介で載せていました。)叔母を見殺しにした自分への懲戒として、美紀は自発的・・・にあの家から出ないんですよ。これ言うと「化け物に追われている間は外へのドア開かないじゃん! 自発的じゃないじゃん!」とつっこまれそうですが、果たしてあのドアは本当に・・・開かなくなっていると思いますか? と答えたいですね。
 ……という事情があったのですが、さすがに分かりづらかったなと反省し、美紀が外に逃げて結局家に戻ってくるストーリーを追加しました。あの家に3年ぶりに足を踏み入れたことで、叔母への罪悪感が無意識下から浮き上がり、形となって彼女につきまといます。つまり、あの化け物は家にとり憑いている訳じゃなく、言うなれば美紀にとり憑いているんです。だから、家から出ようと出まいと変わりません。外に逃げたって、根本的な解決をしない限りあの家に舞い戻ってしまいます。外でも化け物に追われてしまうことで、プレイヤーにそんな背景を理解してもらえたらいいなと思っています。
 そういえば、大きな変更点として「化け物」が「影」になったことがありましたね! 元々私はあの化け物を影のような感じにしたかったんですが、旧版製作の当時はそんな技術力がなかったんですよ。なので、お借りしたゾンビのようなキャラ素材を使っていました。
 影に関して言えば、かくれんぼの難易度がものすごく低くなりました。旧版は化け物の足が速すぎてかくれんぼと言うより鬼ごっこになっていましたが、リメイク版では影の速度がダウンし、隠れ場所が分かりやすくなっています。ただ、影がちかちか点滅して見にくくなったり、障害物を迂回して追ってくるようになったりと、難易度が下がりすぎないように調整はしていますが。
 とまあ、色々と変更点はありますが、総括するとリメイク版は旧版に比べてプレイヤーに大分優しくなったと思います。ただ、これは旧版を経験したプレイヤーにしか分からないことなので、新規でプレイされる方がどう感じられるかはちょっと不安ですね。
BAD・GOODエンドについて
 エンド分岐の選択肢で「妄想」を選ぶとBADエンド、「本当に化け物」を選ぶとGOODエンドになりますが、単純な逆張り(妄想→実は化け物/本当に化け物→実は妄想)ではありません。どっちも真実は同じですが、断定はしないようにしています。でもまあ、前段の内容を読んでいれば分かっちゃいますかね。
 リメイク版はBADエンドの内容が変わりました。旧版では美紀死亡の新聞記事が出るだけでしたが、リメイク版では三浦の独白が入ります。実はこのシーン、当初は違う場面を使う予定でした。美紀の第一発見者となった三浦が、警察署で聴取を受けている場面にするつもりだったんですよ。「自殺であんな死に様になる訳がない。絶対に他殺だ」と主張する三浦に、刑事があることを告げて愕然とする……という場面だったんですが、真相を限定してしまうのはつまらないかと思い、三浦の独白のみに変更しました。三浦は記事に「自殺なんてありえない」と怒りつつ、「精神的に、ひどく追い詰められてたなら……自傷が行き過ぎるってことも、あるんだろうか」と納得しかけています。結局BADにおける美紀の死が自死なのか化け物の仕業なのかは分からないままで、選択肢の「妄想」を否定している訳ではありません。
 GOODエンドには、「運ばれた先の病院で心療科に診てもらったところ、私は統合失調の疑いがあるとのことだった」という美紀の独白が入りますが、必ずしも美紀が統合失調を患っていたという訳ではありません。あくまで疑い・・ですね。旧版からそれは変わっていませんが、リメイク版では強調するために特典のキャラ紹介でも1文を入れておきました。つまり、分岐で選んだ「本当に化け物」の逆張りで、化け物は全て妄想だった……と〆た訳ではないんです。
 非常に分かりづらくなってしまいましたが、結局私が言いたいのは、美紀と同じく「どちらだったとしても構わないのだ」ということです。美紀がBADを迎えたのは、自分のせいで叔母が死んでしまったと思い込み、自分を強く責めてしまったからでした。GOODエンドとの違いは、罪悪感のさらに奥に眠る、叔母に対する感情を思い出せたかどうかです。自分を抑圧する罪悪感の根本が強い愛情だったことを、そして母からは冷遇され、自分自身ですら愛せない自分を愛してくれた人がいたことを思い出せるかが、エンド分岐の鍵でした。あの影が妄想か化け物かは問題ではなく、美紀も言っていたように大事なのはこれから先です。彼女は心療科へ通院することで自分の弱さに向きあうことに決めましたし、諍いを起こしてでも母に受診の説得をすることを決意しました。自分自身、そして近しい他人との戦いがこれから始まるのです。美紀に戦う勇気を与えたのは、GOODエンドにおける気づきでした。これから先を生き抜く覚悟・強さを手に入れられるか否かが、エンド分岐における重要な違いという訳です。

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